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Channel: AHA-BLSインストラクター日記
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院内トレーニングサイトをつくろう 【前提条件編】

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前回、「サイト長になろう!」という話を書きました。

世間一般では、AHAインストラクターになるということは、サイト単位の共同作業で講習開催する一要員になる、という意味でしかないかもしれませんが、自分ひとりで講習開催できるスキルがない以上、それはいつまでたっても半人前。

私はそう考えていますので、最初から、ひとりで講習開催できることにフォーカスした支援を行っています。

逆に言うと、自分で講習開催する意志がない人は、インストラクターコースに受け入れません。

つまり、下記のような条件を満たしていることを求めています。

1.受講者を集めることができること
2.会場確保ができること
3.(将来的に)講習機材を確保できる目処があること
4.兼業制限がないこと、もしくはクリアできること

病院勤務の看護師で、自分の勤務している病院内で職員向けにAHA講習を開催したいという場合でしたら、上記の1と2のハードルは低くなります。病院でBLSマネキンなどを所有していれば理想ですね。(もっとも乳児マネキンはないことが多いですが)

しかし意外とハードルが高いのが4番目。これがキモと言えます。

公立病院の看護師は公務員。基本的に兼業禁止ですし、その他の一般病院でも兼業禁止という就業規則がある場合がほとんど。

この部分をどうクリアするかが最大の焦点です。

さらにいうと、AHA講習はプロのためのプロの講習ですから、インストラクターには対価が支払われるべきですし、カード発行手数料やマネキン肺の消耗品など、どうしても費用が発生します。

つまり、AHA講習開催には金銭授受が発生します。

そのことを含めて、病院の中で会議室を貸してくれるのか、また病院内で堂々と受講者を募ることができるのか、という点が問題となります。

病院の施設、機材を使って商売をすることは許されない、と言われてしまうケースをよく聞きます。

つまり、上記4に関連して、AHA講習の位置づけと院内インストラクターの位置づけをクリアにしておかないと、話が最初から進んでいかないのです。

法律で兼業が制限される公務員であっても、現実、AHAインストラクターとして堂々と講師料を受け取っている人もいますので、決して無理な話ではありません。詳しくはまた別項で書きたいと思います。


他にも病院内には様々な抵抗勢力があります。

・AHA講習を看護師個人が開催するなんてありえない、という誤解
・後輩のくせに生意気よ、的なやっかみ
・認定看護師でもないに、私をさしおいて調子に乗ってるわね、的意見
・院内開催は好ましいけど、受講料とか地域との格差が生まれるのはマズイ
・BLS? 院内研修をやってるから十分でしょ
・AHAがなんだか知らないけど、ヘンなものを持ち込まないでちょうだい
・あなたひとりで何ができるの?
・受講した人としない人で差がつくのは良くない

こう考えていくと、個人の熱意だけでは潰されるのは目に見えています。

大事なことはインストラクターとしての経験や権限ではなく、それ以前に病院組織に対する交渉だったり、根回しだったり、将来的なビジョンをどう打ち立てるか、という、営業能力・プレゼン能力です。

そしてそれは、一朝一夕のものではなく、普段から病院組織に貢献しているかどうかという点も大きく関わってきます。

例えば院内でBLS研修が行われている場合、その指導担当でもない人がいきなりAHA講習をやります、といっても理解されないのは、当然ですよね。

そういう下積み、基盤を作ってあってこその話です。


また看護部は決断力がありませんから、診療部へ話をつけておくことも大切。

特にキーパーソンとなる診療部の部長クラスの医師を仲間にしておくことは肝要です。


病院で機材もあるから、ぜひ院内で! と簡単に考える人は多いですが、実際のところ、自分の勤務先病院内で講習開催出来ているケースが少ないのは、インストラクターの権限の問題だけではなく、病院組織の内部問題であることが多いのです。

戦略的に自分の病院内での立ち位置を見て、院内AHA講習開催を目指すなら、まずは病院内で今できることを始めてください。



すでにインストラクター資格をお持ちで、院内開催を目指してる方は、いくら外部のトレーニングセンターでがんばっていても、同時に自分の足元を固めないと、残念ながらそれは方向違い、ではないでしょうか。






院内トレーニングサイトをつくろう【個人の思いをムーブメントに変える】

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昨日は、病院内でAHA講習を開催していくためには病院内でのネゴシエーションが重要という話をしました。

AHA講習といえば、病院と親和性が高いと思いがちですが、実際はなかなか難しいんですよね。

私が関わったケースで、うまく病院内トレーニングサイト立ち上げにこぎつけて軌道に乗っているケースは次の2つです。

・病院が患者安全教育としてAHA ECCプログラムを組織的に採択した
・救急センター師長が発起人となり救急部長を巻き込んで院内サイトを立ち上げた

比較的トップダウンに近い感じで、完全なボトムアップ型というのはあまり聞かないのが現状です。

米国と違って、HCPカードやACLSプロバイダーカードがなくても就労できる現状があり、救命スキルの習得義務も技術証明も求められていない日本にAHA講習はそぐわない、と言われればまさにその通り。

医療者が確かな救命スキルを維持するべきというのは道義的に正しいのですが、それは法律や日本の医療制度が必ずしも求めていないという現実を理解する必要があります。


それでは、ボトムアップ式にAHA ECCプログラム開催にこぎつけるにはどうしたらいいでしょうか。

病院の安全対策部門の責任者や、発言力が大きい診療部の部長クラスの医師を巻き込んで、病院としての取り組みにAHA講習を組み入れるのがもっとも理想的かもしれません。

そうした大きな動きを起こすためには、どのようなアプローチをしたらいいか?

仲間は多いほうがいいでしょうね。

安全対策関係の委員会委員に根回しをしておくことも重要です。

また自分が所属する部署の師長は絶対に仲間にしておかないとダメです。

救急認定看護師も外せませんし、救急科があるなら、その部長も。麻酔科、ICU、循環器なんかも。

大病院ならたいていあるクラブ・同好会活動制度を利用するというのも手です。救急サークルみたいのを立ち上げて、個人からの発信ではなく、団体からの発信という図式にするとか。

そうやって有志が集まったら、まずはその活動や考えをPRする機会を作ります。

手堅いのが、AHAのファミリー&フレンズCPRコースDVDを使ったミニCPR講習がお勧め。
1時間程度で無料でできて、AHAコースの特色のPRにも使えます。

もともと職員向けBLS講習をやっているような病院だったら、きっとそこでも抵抗勢力が出てきますので、職員とその家族向け、親子で学ぼうとか、そういう切り口なんかもお勧めです。さらには外来に張り紙でもして、地域住民に参加を呼びかけるというのもいいでしょうね。

これって、病院が使命として掲げている地域貢献の絶好のPRになりますから、病院事務部なんかは歓迎してくれるんじゃないでしょうか?

このように個人の発想を、まずはチーム力に変えて、それを病院を動かすムーブメントに持っていく。

トップダウンの決定がない以上、このような地道な活動で下積みをすることが肝要と思います。

結局、一気に高みを目指すから、構想だけで立ち消えに終わってしまうのです。

熱意があるなら、まずは動きましょう。ここまで言っても何も行動しない人は、きっと最初からやる気がないのです。




院内研修としてAHA-BLSコースを導入は非現実的。まずはそこを認めよう

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AHAのBLSヘルスケアプロバイダーコース。

おそらく日本で唯一といっていいくらいのデファクト・スタンダードな医療者向けBLS講習です。

日本救急医学会のBLSコースなんてものも最近できましたけど、開催しているところは事実上ゼロに近い状態ですから、医療者が本格的にBLSを学ぼうと思ったらAHAのBLSに頼っているのが日本の医療界の現状です。

そんなAHA-BLSだからこそ、病院内で医師・看護師の標準教育に使えばいいと思いがちですが、全国を見回しても、そんなことしている病院はほとんどありません。

不思議に思うかもしれませんが、それが現実。


つまり、日本の病院ではAHA-BLSは馴染まないのです。


なぜか?

理由はいろいろあります。


1.講習時間が長い
2.乳児の蘇生までは要らないんだけど、、、
3.受講料が高い


まずは、なんといっても 時間 でしょうね。

病院内の研修って、たいていは業務終了後の18時くらいかですよね。
そこからヘルスケアプロバイダーコースが始まると考えたらどうですか?

私は受講生一人に1体のマネキンを使ってますから、4時間程度で終わりますけど、それでも終了は22時。

医師・看護師が全員受ける研修としては無理ですよね。(私は希望者向けにこの時間枠でやってましたが)

かと言って休みの日に出てきてやってもらうというのも非現時的だし。

この点で、BLS-HCPコースは決定的にダメなんです。

病院としては、「一般的なBLSは習得していてほしいけど、赤ちゃんの蘇生まではいらない。それは小児科だけでいいよ」と思うかもしれません。しかし「コース」であるAHA-BLS-HCPからは、乳児や小児のパートは省略はできません。これも日本の病院側からすると融通の効かなさなんですよね。

あとは受講料の問題。

今でこそ、値段に幅がありますが、いちおう日本標準価格で言ったら1万8千円ですよね。

この費用を誰が出すの? という話。

院内研修として標準化するなら、職員が受講に要する4~6時間分の賃金を出しつつ、受講料の1万8千円を負担しなくちゃいけないってことになります。

経営者がそこまでやるには相当のメリットがないとやりませんよね。

つまり、ふつうにやったら病院内の標準教育プログラムとしてAHAコースを採用するというのは、どう考えてもありえない話なんです。


自分の勤務先病院でAHA講習をやりたいと考えている方は、まずこのへんの現実をわきまえておくのが第一歩。

この障害に打ち勝つだけのメリットを打ち出さなければ、院内開催は難しいということです。




AHA-BLSコースを病院に導入するメリット

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前回は、日本の病院にはAHA-BLSヘルスケアプロバイダーコースはそぐわないという話を書きました。

しかし別の視点に立つと、日本の病院が職員教育としてAHAコースを導入するメリットも見えてきます。


1.国際標準の技術認証が得られる
2.日本の医療界でも標準の資格を取得できる
3.インストラクター育成が簡単
4.講習開催が簡単


東京オリンピックとかTPP。なにかと国際水準が求められるこのご時世。井の中の蛙ではなく、国際的に評価として権威のあるAHAのプロバイダーカードの意義は、この先、評価が上がっていくんじゃないのかなという予想。

もともと日本で最初にAEDが使えるようになった職種は、コメディカルを差し置いてフライトアテンダントだったわけですが、その時も航空会社に選ばれた技術証明は英文でカードが発行されるAHAやMFAでした。(もっとも当時は日本の救命講習にはAEDは含まれていなかったわけですから当然ですけど)

現在、日本でも医療者向けの体系だったBLSプロブラムは事実上、AHA-BLS以外はありません。

だからこそ、日本循環器学会や日本麻酔科学会で専門医認定を取るためにはAHAのBLSとACLSが要件として求められているわけですね。

残念ながら看護の世界では、AHAに限らずBLSを要件として求めるような文化はないみたいですけど、日本有数の大御所学会が公認するプログラムが病院の中で開催できるというのは看護職員や研修医募集にとっては魅力となるのではないでしょうか?

あとは病院としての患者安全体制のPRとしても、使えますし、実際、そういう宣伝をしている病院もあります。(看護部職員全員BLSプロバイダーです! みたいな)



そして後半2つは視点を変えて、指導者養成という話。

今はどの病院でも院内研修としてBLSをやるのは当たり前になっています。

救急認定看護師あたりが講師となって、職員にBLSを教えているのだと思いますが、実技指導を伴うインストラクション。救急認定看護師ひとりでは全職員を教えるなんて無理です。

だから、院内でBLS指導ができる指導者を養成するわけですが、これがなかなか大変。

以前はBLSヘルスケアプロバイダーコースを終了したら、それで、あたな明日から指導者ね、ってかんじでしたが、まあ、そんな素人が適当にやるもんだからシッチャカメッチャカ。

中身のある研修には程遠いものが多いのが現状です。

このような指導者養成という視点で考えると、AHAインストラクター制度は非常にシステマチックです。

インストラクター用の教材がしっかりしているし、インストラクター養成プログラムも出来上がっている。

そしてなによりAHAコースはDVDベースだから、教えるのがとっても簡単。

ぶっちゃけで言えば、ビデオを見せて真似させるだけですから、インストラクターの技量はほとんどいらないようになってるんです。そういうシステムなんです。

考えてもみてください。

消防の救命講習みたいに、インストラクターが自分の言葉で全部説明して、デモンストレーションをして、最初から最後まで講習を仕切れるように訓練するのって大変だと思いません?

AHA講習ならビデオを流して、そのとおりにさせればいいだけだし、説明はぜんぶDVDのなかで喋ってくれるから、インストラクターはビデオ操作ができればいい。

ということで、オリジナルのBLS講習プログラムを作って、そのための指導者を養成して、、、、という手間と時間、つまり人件費を考えたらAHAインストラクター制度に乗っかっちゃった方が早いし、質は高いし、結果的にはコストも安くつくとも言えます。


目先のことではなく、長期的な視点で考えたら、AHAシステムを導入するほうが安いと気づいて実際にそうしている病院グループもあります。


こんなあたりも参考にしてみてください。




東京都が提唱「バイスタンダー保険」にはらむ大問題

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1月9日、バイスタンダー保険なるものの報道がありました。

都、「バイスタンダー保険」全国初の導入へ 市民に救護促す

都、「バイスタンダー保険」全国初の導入へ 市民に救護促す
2015/1/9 13:52 (日本経済新聞 電子版

 東京都は9日までに、救急現場に居合わせた人(バイスタンダー)が応急手当てをした際、傷病者に誤ってケガをさせた場合の治療費を補償する「バイスタンダー保険」を来年度から導入する方針を決めた。手当てに当たった人の負傷なども保険の対象とする。都によると、自治体が同保険を採用するのは全国で初めて。


いっけん望ましい制度のように受け止められがちですが、深刻な問題をはらんでいる「事件」に思えます。

これまで私たち救命法のインストラクターは、「一般市民が偶発的に善意で行う救命・救護処置では、結果や相手にケガをさせる事態になっても責任を追求されない」というスタンスで教えてきました。

その根拠は、民法第698条「緊急事務管理」と刑法第37条「緊急避難」にもとづいて、「市民が救急蘇生を行っても刑法上は、緊急事務管理または緊急避難が成立して違法性が阻却される可能性は高いと考えられる」とJRCガイドライン2010(日本の救急法の原点)に書かれているとおりです。

これまでも、米国のような「善きサマリア人の法」を制定すべきだという議論はなんども起きてきました。しかし、その度に、上記のように、日本では既存の刑法、民法のレベルですでに市民救助者は免責されているから、米国と違って新たな法制度を作る必要はないという言われてきました。


この前提で私達はやってきたわけで、それが正しければ、「傷病者に誤ってケガをさせた場合の治療費を補償する」保険なんぞは必要ないわけです。

それが、今回、東京都という行政がバイスタンダー保険なるものを提唱しているという事実。

それを私達はどう理解したらいいのか?

やっぱり、応急救護で失敗したり、ミスしたら責任を負わされるんじゃん!

ってことになりませんかね?


これ、いままでの救急法の基本前提を覆す由々しき事態だと思いませんか?

これを推進した場合、善意の応急手当であっても責任追及されるというのが前提となり、バイスタンダー保険に入っていない人は応急救護には関わらないほうがよい、という社会構造が定着することになりかねません。


これが学校の先生とか、スポーツインストラクターなら話はわかります。

でも学校の先生やスポーツインストラクターは、通りすがりの一般人、つまりバイスタンダーとは違います。

このあたりを守る保険というならわからなくもないのですが、バイスタンダーという表現は望ましくないと思います。そもそも学校の先生とかは、ふつうの傷害保険の特約でこのあたりはカバーされているはずです。


今回、このような報道がありましたが、バイスタンダー保険に相当するものは、任意の傷害保険としてはもともと存在しているわけで、この報道が示したものは、バイスタンダーであっても責任を負わされるぞ、というメッセージだけに思えてしまいます。

この先の動向を追っていきたいと思います。


なお、今回、東京都が導入を決めた論拠となったのは、東京消防庁のホームページで公開されている、

東京消防庁救急業務懇話会答申書
「バイスタンダーとして、誰もが安心して救護の手を さしのべるための方策はいかにあるべきか」

http://www.tfd.metro.tokyo.jp/kk/kk_31.pdf

と思われます。

これを読むと、ケガをさせたときの法的責任はすでに免責されているという点はきちんと示されていて、むしろ、救護によって救助者自身がケガをしたとか、血液感染病原体に感染したとか、そういうあたりに主眼が置かれているように読み取れます。

また要救助者にケガをさせて場合に関しては、民事訴訟が起きた場合の裁判費用の負担補償が言及されています。(まあ、訴える自由は誰にでもありますからね)

それが報道の段階で、本来はおまけ的だったかもしれない「傷病者に誤ってケガをさせた場合の治療費を補償する」が前面にでてきて、中身がニュアンスとして入れ替わってしまったような印象を受けます。

報道バイアスみたいな部分もあるのかなという気がします。

少なくとも、救急法を考えうえで、責任のある市民(学校教職員や保育士などの職業人)と、一般市民(通りすがりの人)を区別していないことが混乱の大本なのはあるのかなと思います。

今回の議論でこのあたりが整理されるといいなと思っています。




ACLS受講のついでにBLSプロバイダーカード取得も可能って知ってました?

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ACLS受講にBLSヘルスケアプロバイダーコース受講は必要か?

なにをいまさら? な命題ではありますが、最近、Twitterで異論を見かけたので、改めて最新の情報を確認してみました。

少なくとも、ひとつ前のガイドライン2005年版のACLSプロバイダーコースの受講には、AHAのBLSヘルスケアプロバイダーコースの受講や、有効期限内のBLS修了カードの提示は求められていませんでした。

詳しくはブログの過去記事をご参照ください。

「ACLS受講にBLS資格は不要って知ってました?」(2007年12月24日付)
http://aha-bls-instructor.seesaa.net/article/81123980.html



これが現行の2010年版になってからは、もう少し踏み込んだ形で「不要」を打ち出しています。

ACLSインストラクターマニュアル2010の22ページをご覧ください。

BLS for Healthcare Provider Course Completion Card

という項目があり、私の手元には英語版しかないために日本語で要約しますが、「AHAはACLSコースをBLSスキルを基礎としてデザインした。もし、BLSヘルスケアプロバイダーカード発行するためには、BLSインストラクターが臨席し、1人~2人法チェックリストと筆記試験を完了する必要がある」と書かれています。

つまり、ACLSプロバイダーコースの中で、BLS-HCPコースの実技試験と筆記試験を別途行えば、ACLSだけではなくBLSヘルスケアプロバイダーカードも発行できるということです。(この場合、ACLSインストラクターではなく、BLSインストラクター資格をもった人が必要です。逆説的にいうと、BLSインストラクター資格がなくてもACLSインストラクターになれるってこと)


この点は、BLSインストラクターマニュアルにも明記されています。

BLSインストラクターマニュアルG201032ページの「二次救命処置(ACLS)/小児二次救命処置(PALS)コース」という項目に次のように書かれています。

「AHAはBLSスキルを基礎とした二次救命処置コース(ACLSおよびPALS)を考案した。BLSインストラクターは、二次救命処置コースの受講者でBLSヘルスケアプロバイダーのカードを必要としている人の試験を依頼されることがある。BLSの試験は、BLSヘルスケアプロバイダーのスキルテストシートを使用して行うことができる。このような受講者もBLSヘルスケアプロバイダーの筆記試験を受けて84%以上の正答率を得る必要がある」

ACLSやPALSに有効期限内のBLSヘルスケアプロバイダーカードが必須だというのであれば、このような措置はありえない話なわけで、AHA資格制度的に「ACLSやPALSにBLS資格は求められていない」とは断言できます。

さらに言えば、BLS資格に関しても、1日がかりの受講は必須ではなく、要は実技試験と筆記試験に受かればいいということをAHAは示しているわけです。この点は、BLSインストラクターマニュアルに書かれている更新コースの取り扱いについてを見てもらってもわかると思います。



ACLSやPALSは、BLSを基盤として作られたものなので、BLSヘルスケアプロバイダーコースを受講していることが望ましい、という点は否定しません。

そして、ACLSのACLSチックな部分は医学的根拠が薄く、質の高いCPRこそが救命の要という点でも、BLSスキルは欠かせないという事実も否定の余地はありません。

しかし、そのことと、AHA-BLSヘルスケアプロバイダーコースを受講しなければ、ACLSプロバイダーコースに合格しても、それは無理やりの産物というのは言いすぎでしょう。

もともとACLSで求められるBLSスキルと、BLSヘルスケアプロバイダーコースで求められるBLSスキルはイコールではないからです。

その点は、2012年7月20日付で公示された【Training Memo:BLS for Healthcare Providers Course Completion During an ACLS Course】の中でも、明示されています。

The American Heart Association has designed its advanced life support courses with basic life support skills as the foundation and includes limited BLS skills testing as part of ACLS course completion requirements Because of this limited testing that is unique to ACLS, BLS for Healthcare Providers course completion requirements cannot be incorporated with in the ACLS Provider or ACLS Update Course.

ACLSやPALSで求められるのは、BLSヘルスケアプロバイダーコースの限定的な一部です。

そこをクリアすれば、ACLSプロバイダーカードが発行されるというのは、ゴールオリエンテッドなAHAの教材設計からすれば至極当然の話です。

ACLSで求められるBLSスキルは成人の一人法CPRだけです。ハートセイバーCPR AEDコースの実技試験とほとんど変わりません。

その技術を教えるのに4時間も使う必要はありません。私の経験上、まっさらな素人であっても15分~30分もあれば十分です。

ということで、私はACLS受講にHCPを要件にしていませんし、忙しい医療従事者の現状を考えたら、最初から成人の蘇生だけを考えている人には、HCP受講なしにACLS1日コースを受講してもらうというのがもっとも理想的だと考えています。そして、実際、私はこの4年ほどずっとそうしてきました。

公募講習としてやるならいざ知らず、病院の中で医師・看護師全員に二次救命処置を習得させようとして、BLSで1日、ACLSで2日、計3日もかけるなんてあまりに非現実的。

私の勤務していた病院の場合は、BLSもACLSも開催するのは私でしたから、限られた私の時間で一人のACLSプロバイダーを育てるのに3日も割くなんてありえない話。

だからこそ世間ではICLSが優勢なわけですが、AHA正規講習も実はACLS1日コースの中にすべて内包することが可能だという点はあまり知られていません。

いままでAHA講習は地域の○○トレーニングサイトに行って受講するというのが常識でしたが、病院の中にトレーニングサイトを置くことの意義が叫ばれるようになってきました。

ぜひ、その上では、ACLSプロバイダーになるために、BLSヘルスケアプロバイダー「資格」は必要でない点、またさらにはACLSプロバイダーコース受講時にBLS-HCPカードを取得することも可能である点、さらにはACLSは2日かけずに1日で修了可能である点は、もっと広く知られてもいいのではないかと思います。




ACLS EPコースを受講すると、ACLSプロバイダーカードも同時発行されるロジック

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ACLSプロバイダーコースの上位に位置づけられるACLS EPコースというのがあります。

ACLS Experienced Providerの略で、日本語にするとACLS熟練提供者コースといった感じでしょうか。

ACLS EPカード


このコースを日本で展開していたのは、もともとは日本ACLS協会だけでした。ガイドライン2005時代からいち早く開催していました。

それに加えて去年に香港で開催されたガイドライン2010ロールアウトに参加した、日本医療教授システム学会と日本循環器学会が、それぞれ去年の9月と今年の1月から国内展開をはじめています。

ACLS EPコースを修了すると、ACLS Experienced Providerカードが発行されますが、おもしろいことに、ACLSプロバイダーカードが同時発行される場合があります。

現時点、日本ACLS協会と日本循環器学会で受講するとカード2枚の発行されるようです。

そして日本医療教授システム学会での受講だとACLS EPカード1枚のみの発行が標準のようです。

この違いについて調べてみました。


実は普通にACLS EPインストラクターマニュアルを見ても、カードを2枚発行できるよ〜、とはダイレクトには書かれていません。

それらしい文章といえば、1ページの【コースの内容と目的】にある次の一文です。

コースディレクターは、以下の2つの観点からACLS EPコースに取り組むことができる。
1.ACLSリニューアルの代替方法。(以下省略)


さらに続く2ページに【受講対象者】ということで、「このコースは、重要な意思決定法を用いてプロバイダー資格の更新を望む、経験豊富なACLSプロバイダーのために考案されている」と書かれています。

このことからACLS EPコースを受講することで、ACLSプロバイダー資格の更新ができる、つまりACLSプロバイダーカードが新しい日付で発行されるというロジックになります。

もっともACLS EPカード自体に、ACLSプロバイダー資格が内包されるのだという解釈もできますが、資格社会の米国、ACLSプロバイダー資格が要件として求めらているのに、EPカードでもいいでしょ? というのは、AHAの勝手な言い分であって、社会的にはEPはACLSプロバイダーほどは認知されていないという事情もあるのかもしれません。

ACLS EPコースの中には、ACLSプロバイダーコースと全く同じ実技試験と筆記試験が課されています。

そういった意味では、ACLS EPコースとはいえ、試験によって測られるゴール設定は、ACLSプロバイダーコースと何ら変わりません。だからこそ、「ACLSリニューアルの代替方法」としても定義されているわけですね。

ですから、ACLSプロバイダーカードが発行されるのは自然なこととも言えますが、コース内の学習内容としてはACLSプロバイダーコースの内容が含まれているわけではなく、「ACLSプロバイダーコースを履修したとは言えないから、カードが発行されるのはおかしい」、という意見もあります。

となると、もともとACLSプロバイダーコース規定中で、ACLSプロバイダーカードが発行されるための要件がどう定義されているのかを確認する必要がありそうです。

そこで見るべきは、ACLSインストラクターマニュアルの38ページ【カードの発行】です。

コース修了カードを受け取る資格があると認められ、以下の条件を満たす受講者には、コース修了カードを発行する。
・コース「全体」に参加している(フルコース)
・CPRおよびAEDスキル、バッグマスク換気スキル、およびメガコードスキルの各テストに合格している
・84%以上の正解率で筆記テストに合格している


コース全体に参加している、という要件がフルコースに限定されていることに注目してください。

逆に言うと、フルコース以外、つまり資格更新のためのリニューアルコースとしては、コースに参加することは要件になっていないのです。

この点が詳しくはACLSインストラクターマニュアル7ページの【受講の要件】のところに詳しく説明されています。

要約すると、

1.初めて受講する人はフルコースを受講して試験に合格することが求められている。
2.ACLSアップデートコースは、現在有効なACLS-P資格がない人でも受講できるが、試験一発合格が求められる
3.ACLSアップデートコースは、有効なACLS-P資格があれば、クラスを受講せずに、試験のみを受験できる

と書かれています。

肝心な部分だけ、引用しておきますね。

「ACLSアップデートコースを受講する受講者(現在のACLSカードを所有していること)は、インストラクターの裁量により、クラスを受講せずに必要なテスト(「テストアウト」)を受験することができる」


これが恐らくACLS EPコースでACLSプロバイダーカードも併せて発行される根拠になっていると思われます。

ACLS EPコースでは、明確にはACLS-Pカードの発行は規定されていないものの、ACLSプロバイダーコースのアップデート(リニューアル)要件に合致しているという考え方です。

つまり、ACLS EPコースを受講することでACLSプロバイダーカードも発行されるのは、不正行為でも偽装でもなく、根拠のある正当な措置です。

ただし、これはACLSインストラクターマニュアルに準拠するなら、「インストラクターの裁量により」行われる措置です。

つまり、ACLS-Pカードを発行しないというのもまた正当なことと言えます。

これが、日本ACLS協会及び日本循環器学会と、日本医療教授システム学会でスタンスが違う理由なのでしょう。

大事なことは、AHA的にはどちらも正当であり、この違いを受講者がどう判断して、どこで受講するかを判断するのは単なる市場原理の話である、という点です。

そこを踏まえて、受講者の利便(学会提出にはACLS EPではなく、ACLSプロバイダーカードが求められている、等)を考慮して、トレーニングセンターが、どう運営していくか、ということですよね。

ACLS EPカードには、ACLSプロバイダーカードの意味も内包されているという事実を広く業界に通知して、EPカードの価値を認知させていくというのも手だと思います。

日本ではまだ固まっていないACLS EPコースの意義と位置づけを定義していくのも先駆者たちの使命なんじゃないでしょうか?



ただ一点、最後に指摘しておきたいのは、G2005の時代に行われていたメガチャットと呼ばれるメガコード試験は、少なくともG2010のインストラクターマニュアルには含まれていないことは明記しておきます。

ACLS EPコース開催の必要物品として、モニター付き除細動器や心電図シミュレーター、挿管できるマネキンなどが記載されています。(任意とは記されていません)

ACLSリニューアルの条件を満たすためには、ACLSプロバイダーコースと同じ条件で実技試験を行う必要があり、実運動なしの口頭試問的なメガコード試験で済ませていい根拠は私には見いだせません。(G2010の今でもそうやっているのかは定かではありませんが)






半ば自己否定に陥ったACLS、G2015ではいかに?

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あちこちで耳にする指摘ですが、改めて書いてみます。

病院の急変対応研修といえば、BLSが基本で、一部先進的なところでは二次救命処置(ACLS)を取り入れているところもありますが、その医療安全体制についてAHAのACLS自体が自己否定(?)しているって知ってました?

まず、前提知識の確認です。

私たちは以下のように教わってきました。

『大人が倒れた場合、心電図モニターをつけると心室細動(VF)になっていることが多い。だから早期除細動が重要。BLSでもACLSでも心室細動にフォーカスした"VFハンター"になるべく訓練が必要。』

だからAEDがもてはやされて、猫も杓子も除細動、という教育がされてきました。

しかし、ガイドライン2010版のAHA-ACLSプロバイダーマニュアルを見ると、次のような驚くべき記述があるのです。

「VF/VT以外のリズムは院内心停止の75%以上を占めている」

ACLSプロバイダーマニュアルG2010
(ACLSプロバイダーマニュアル G2010 p.30)


あれ? 成人の心停止のほとんどはVFじゃなかったの?

って思っちゃいますよね。

これまでは「成人の心停止は前触れなく突然に起きるから、BLSが必要であり、ACLSが必要」という論調で"急変対応"が語られていたのは、間違いだった、みたいな驚愕の事実が書かれているわけです。(←この書き方、かなり恣意的です。批判は覚悟の上で。)

実はこの布石は、ひとつまえのガイドライン2005版の「ACLSプロバイダーマニュアル」にも書かれていて、院内心停止の8割くらいに予兆があったという点が示されています。だからこそ、患者急変対応コース for Nursesとかが作られたわけですけど、まあ、その方向性が再確認、強化されたって感じですね。

つまり、VFハンターというICLSの言葉に象徴されるような視座の起き方は、現在となっては不適切という認識にシフトしてきています。

これまでは、VFは突然に起きるものでしたから、心停止後の対応だけを考えていればよかったのですが、そうではなかったとなると、これは病院業界、大変な激震です。

だからこそ、ACLSプロバイダーマニュアルG2010では、次のように述べています。

「医療機関内で文化的な大きな転換が必要とされる」(p.31)

急変対応に関する文化大革命ですよ、と言ってるわけですね。

心停止は不可抗力。

ではなく、心停止は防げるもの、それがG2010では、明確に打ち出されているのです。
それをAHAは痛烈な言葉で表現しています。

「救助の失敗」

下記のように、病院での心停止は防ぎ得るものであるから、心停止になってしまったら、それは救助の失敗である、と。

ACLS Provider Manual G2010
(ACLSプロバイダーマニュアル G2010 p.31)


これ、現場としては痛いですよね。

でも、その潮流はG2010に始まったことではなく、G2005から引き継がれてきたこと。

これが今年10月に発表されるガイドライン2015では、どのように扱われるのか?

そして遅れること2年後くらいに出てくるG2015ACLSプロバイダーコースはどう変遷していくのか?

私たちは病院文化の担い手として、真摯に受け止めたいと思います。



病院内での心停止はBLSでは終わらず、そのままACLSに突入するわけですから、看護師としてACLSのアルゴリズムを知っておくことは必要です(受講が必要、ではなく)。

しかし、それは一般教養というか、たしなみであって、そこを一生懸命勉強するような時代は過去の話。

この先は、AHAでいうなら心停止予防コースPEARSのような、心停止以外の予兆に着目しなくちゃいけない、特にベッドサイドで患者の様態変化に気づける看護職にとっては、という方向性。

院内でも8割は、心室細動ではないとわかってるわけです。

人が死に至る原因は、呼吸障害か循環障害(ショック)。

そして、呼吸障害は、上気道閉塞、下気道閉塞、肺組織病変、呼吸調整機能障害の4つに分類されます。

ショックであれば、循環血液量減少性ショックと血液分布異常性ショックがほとんど。

これらの徴候を知っていれば防げるし、心停止にさせなくて済む。

そんなことが明らかになってるわけですから、そこを学ばないわけにはいかないですよね。

今は、小児分野でしか叫ばれていませんが、これはほぼそのまま大人にも言えます。
こんな方向が、これがますますはっきりしてくるのは間違いないと思います。




蘇生ガイドライン2015版AHA教材発売予定

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おとといあたり、AHAコースのG2015教材発売に関する話題が流れてましたね。

遅ればせながら、こちらのブログでも紹介させてもらいます。

以下、AHAから送られてきたメールの内容から、日本に関係ありそうな部分をピックアップして日本語化しました。

日本語で書きましたが、これらは基本的に英語版の発売予定です。

日本語教材については、まだ言及されていません。例年どおりだと概ね1年遅れくらいかなと思います。

今回は、前回までにくらべて全体的に半年くらい繰り上げの早めの予定が提示されています。
例えば、まっさきに改定されるのはBLSヘルスケアプロバイダーコースですが、これがガイドライン改訂の翌年の6月というのが常でした。それが今回は1−2月と提示されていますからね。

この勢いで1年遅れだった日本語化もスピードアップしてくれるといいのですが。



AHAガイドライン2015関連公開予定

2015年
10月15日


11月〜12月
2015ガイドラインハイライト発行(日本語版、無料PDF)
ECCハンドブック発売

11月6日
インストラクターアップデートカンファレンス(オーランド)

2016年
1月〜2月

BLSヘルスケアプロバイダーコース教材発売
ハートセイバーCPR AEDコース教材発売
ACLSプロバイダーコース教材発売

5月〜6月
ハートセイバー小児ファーストエイドCPR AED教材発売
ハートセイバー血液媒介病原体コース教材発売
ファミリー&フレンズCPR教材発売

7月〜8月
PALSプロバイダーコース教材発売
PEARSプロバイダーコース教材発売



この予定をみる中で、とても残念に感じたのは、結局、G2010では、Family & Friends First Aid for Childrenは発表されないまま終わるんだなということ。

そしてG2015の教材リストにもFamily & Friends First Aid for Childrenのタイトルはありません。

ファミリー&フレンズCPRと同じで、無料で開催できる子どもファーストエイドコースとして、珠玉のプログラムだっただけに残念です。





意識を失った人への窒息解除:CPRが正解だけど、、、要注意!

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話をシンプルにするために成人傷病者を前提に話します。

喉にモノが詰まったら、ハイムリック法(腹部突き上げ法)か背部叩打法で窒息解除を試みるのはご存知の通り。

このあたりは市民向けの救命講習でも必ず教わることなので、知っている人が多いと思います。

これでうまく取れれば御の字ですが、着手が遅れたり、うまくいかない場合に、どうなるかというと、意識が朦朧としてきて、意識を失って倒れてしまうことでしょう。

そこに至るまでの時間はほんの数分です。自分は何秒間息を止められるかな、と考えるとイメージができるかと思います。

119番で救急車を呼ぶのでは間に合わない、だからこそ、その場にいた人が迅速に処置する必要があるわけです。

で、だいたい、映画みたいにすばやく対応できる人なんてそうそういませんから、喉にモノが詰まった場合、処置が間に合わずに意識を失ってしまうケースは少なくはないんじゃないかと思います。

だからこそ、意識を失った後の対処も知っておくべきなのですが、残念ながら、ここはあまり知られていません。

救命講習でもさらっと話す程度で終わりますし、受講者の記憶にも残っていない場合が多いです。

でも、けっこう大事だぞ、という点は、ここまで読んでくれた方ならわかりますよね?


さて、腹部突き上げ法や背部叩打法が間に合わず、意識を失ってしまったら(正確には反応がなくなったら)、ハイムリック法や背部叩打法を続けるのではなく、「胸骨圧迫からCPRを開始する」というのが教科書的な正解です。

一般の救命講習でも「意識を失ったら心肺蘇生法を行ってください」という感じでさらっと説明されますが、ここにけっこう大きな落とし穴があるんだよ、というのが今日皆さんにお伝えしたいポイントです。

大事なことは、

胸骨圧迫からCPRを始める(脈拍触知はしない!)


ということです。

ハイムリック法をしているうちにぐったりしてきたら、「大丈夫ですか?」「呼吸確認!」とかそういう評価は必ずしも必要ではありません。

特に、絶対にやっちゃいけないのが脈拍触知です。

市民向けのプロトコルだと脈拍触知は行わないことになっているのでいいのですが、ヘルスケアプロバイダー(医療従事者)向けで教わっている人は要注意。

想像してみてください。

喉にモノが詰まって息ができなくなって意識を失った人がいて、倒れた直後に脈拍を取ってみたら、、、、

きっとまだ脈はありますよね。

体の中が酸素不足になってますので、代償機能が働いて頻脈気味かもしれません。

で、普通のBLSの手順に従うと、「反応なし+呼吸なし+脈あり」、ですから、やるべきことは5〜6秒に1回の補助呼吸ということなってしまいます。


このシチュエーションで、必要な処置は胸骨圧迫の名を借りた 胸部突き上げ です。

つまり、臥位の状態で胸を強く早く断続的に押すことで、肺の空気を間欠的に押し出し、その力で喉につまった異物を取り除こうというのが目的。

心臓に力をかけたいのではなく、肺に力を掛けたいのです。(ですから、心臓マッサージではありません。胸部突き上げなのです)

もし、ここで脈を取ってしまうと、恐らく脈はまだあるでしょうから、この胸骨圧迫(=胸部突き上げ)につながらないのが問題だという点はわかるでしょうか。

だから話をシンプルにする意味では、近似的にCPRをしてください、といいますが、「胸骨圧迫から始める」ということ強調するのがとてもとても大切なのです。


ヘルスケアプロバイダーレベルのBLSを教える以上、ここをしっかりと伝えることはインストラクターの責務ではないかと思います。

AHAのヘルスケアプロバイダーマニュアルにもこのことはきちんと書かれていますので、ぜひ見てみてください。

53ページになります。

「傷病者を地面に寝かせ、胸骨圧迫からCPRを開始する(脈拍のチェックはしない)。」

と書かれています。



もうひとつ、この場面でわかりにづらいのが通報のタイミングです。

ここは呼吸原性心停止と同じ扱いで考えて、優先されるのは胸部突き上げの開始です。

誰か人がいれば119番通報をお願いするべきですが、自分一人しかいなければ、「誰か!」と叫びつつも自分で携帯を取り出すのではなく、行動としてやるべきは胸部突き上げです。

意識を失って脱力すれば、筋肉もゆるみますので異物が取れる可能性が高くなっていると考えられます。

だからこそ、臥位にして胸部突き上げを中心としたCPRを。

それでも取れなければ、埒が明きませんので、CPRを中断して、公衆電話に走るか携帯で119番しますが、その時間の目安はCPRを5サイクルもしくは2分間行った後、とされています。

米国ガイドライン(AHAガイドライン2010)では上記のように教えていますが、日本版ガイドライン(JRCガイドライン)では、通報が優先とされていますので、その点もインストラクターは把握しておいたほうがいいでしょう。





高度な気道確保*ラリンジアル・マスクの話

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ACLSプロバイダーコースの勉強をしていると、高度な気道確保で「声門上デバイス」というのが出てきます。

日本の医療現場では、ラリンジアル・マスクがよく使われていますが、病院内でも見たことがある人は少ないかもしれません。

救急センターや病棟での急変でも、普通は気管チューブで挿管しますので、使うとすればオペ室くらい。

ということで、ちょっと紹介してみようと思います。

ランジアル(ラリンゲル)・マスク*声門上デバイス


AHA的には、こういった声門上デバイスも気管チューブも一緒くたに「高度な気道確保器具」として扱っていますが、根本的に別物として考えたほうがいいと思います。

というのは、気管挿管に比べてラリンゲルマスクは、気管と食道の分離性が悪いというか、確実性が低いため、本当に非同期でCPRをしていいのかという点では議論の余地があるからです。

ご存知、気管チューブは気管内でカフが膨らませることで、チューブを通して空気(酸素)が確実に肺に届き、食道から胃に空気が入り込むことはありませんし、逆に嘔吐をした場合でも、吐瀉物が肺に入り込むこともありません。

それに対してラリンジアル・マスクはあくまでも「マスク」であり、気管内には挿入されません。喉の奥の声門周囲を覆うように配置して、立体構造のカフを膨らませて周囲に密着することで食道を塞ぎ、気管だけに交通するように気道確保を行っています。

フェイスマスクが口と鼻を覆うように密着されるのと同じ感じで、声門部に密着させているだけ。

形が複雑なだけに密着度には個体差があり、チューブのズレや蛇管などの負荷のかかり方によっても容易に隙間ができる可能性があります。

故に麻酔科医も、全身麻酔の時に気道と食道を確実に分離させたいような症例では、ラリンジアル・マスクは選択しません。


そういった意味で、気管挿管したら胸骨圧迫と換気は非同期で行いますが、ラリンジアル・マスクで同じようにした場合、気管挿管に比べると胃膨満や誤嚥のリスクは高いと考えられます。

ここは日本版ガイドライン策定の際に、議論になったようですが、結局、ガイドラインでは下記のように記載されました。

「気管挿管後は、胸骨圧迫と人工呼吸は非同期とし、連続した胸骨圧迫を行う。(中略)声門上気道デバイスを用いた場合は、適切な換気が可能な場合に限り連続した胸骨圧迫を行ってよい」

(JRCガイドライン2010、第2章成人の二次救命処置より)


いちおう気管挿管と声門上デバイスの違いは表現されていますが、「適切な換気が可能な場合に限り」というあいまいな限定付の上、「行ってもよい」というやや歯切れの悪い表現となっています。


以前は、救急救命士は気管挿管ができなかったため、このラリンジアル・マスクやコンビチューブといった喉頭鏡を使わずに盲目的に挿入できる器具を使っていましたが、今は挿管認定を受けた救急救命士が増えてきているので、これらが救急の場面で使われる頻度は減っているのかもしれません。

細かい議論はあるかもしれませんが、気管挿管とラリンジアルマスク挿入は似ているようで根本的に違うというお話でした。


で、参考情報ですが、ランジアル・マスクによる気道確保は看護師でも行える処置ということになっています。

現実、看護師の急変対応でフェイスマスクの代わりに使うということはまず無いんじゃないかと思いますが、いちおう気管挿管と違って訓練さえ受けていれば看護師が扱ってもいいことになっています。

その根拠は、救急救命士が行える処置として規定されいている以上、救命士の業務範囲をカバーしている看護師免許でも行える、というロジックのようです。

参考まで。




「AED処置遅れ植物状態」男性が病院提訴 …河北新報報道について

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病院内でのAED使用が遅れたということで訴訟が起きたというニュースがありました。

「AED処置遅れ植物状態」男性が病院提訴



細かいことはわかりませんし、視座の置き方によって色々な問題点が見えてきそうですが、少なくとも言えるのは、これまでブラックボックス化されていた病院内での救命処置に対して、家族から嫌疑を投げかけられる時代になってきた、ということです。

これまでは「最善を尽くしました」というパターナリズム的な説明で納得が得られた部分でしたが、それに甘えていてはいけません。

生活者ガバナンスの変化に、私たちは敏感であり、倫理観高く仕事をしていきたいですね。
そのためにも、日々の研鑽・訓練、予測的な関わりが重要です。


「AED処置遅れ植物状態」男性が病院提訴
 仙台オープン病院(仙台市宮城野区)に入院した宮城県大和町の男性(57)が心肺停止後に遷延性意識障害(植物状態)になったのは、自動体外式除細動器(AED)の使用が遅れたためだとして、男性と妻が1日、病院を運営する公益財団法人仙台市医療センター(同)に1000万円の損害賠償を求める訴えを仙台地裁に起こした。
 訴えによると、男性は2013年4月、十二指腸がんで入院。手術後、腹部の激しい痛みを訴え、コンピューター断層撮影(CT)を実施したところ、撮影中に心肺停止状態となった。男性はAEDの使用で約15分後に蘇生したが、現在も意識が戻っていない。
 男性側は「病院は男性の心肺停止後、別の蘇生法を試すなどしていた。AEDを直ちに使用していれば、植物状態になるのを避けられた可能性が高い」と主張している。
 賠償請求額は男性の事故前の収入などから約8040万円と算定したが、今回は一部の請求にとどめた。審理の状況に応じて増額するという。
 仙台オープン病院総務課は「訴状が届いていないのでコメントできない」と話している。






AHA講習受講料の話・・・アメリカ心臓協会の収益ではない

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これまで過去何度も書いていることですが、AHA講習受講料に定価はありません。

また、受講料はアメリカ心臓協会(AHA)に上納されるものではなく、AHAとトレーニングセンター契約をしている日本の団体(学会やNPO法人、病院、一般社団法人、株式会社など)の収益となります。

ですから、世間の人たちが思っている「AHA講習は高い! アメリカ心臓協会、ボロ儲け」みたいに思われているのは完全なる誤解です。

受講料を設定し、受領しているのは、日本に9つあるトレーニングセンター格を持った団体です。

・日本小児集中治療研究会(JSPICC-ITC)
・日本ACLS 協会(JAA-ITC)
・日本循環器学会(JCS-ITC)
・日本医療教授システム学会(JSISH-ITC)
・福井県済生会病院(FSH-ITC)
・国際救命救急協会(IEMA-ITC)
・日本BLS協会(JBA-ITC)
・日本救急医療教育機構(JIEME-ITC)
・ACLS Japan

概ねこれらの団体ごとに受講料が違うと考えていいと思います。

公募のBLSヘルスケアプロバイダーコースにしても、1万2千円から2万6千円と開きがあるのが現状です。また、病院内限定講習ともなれば、トレーニングセンターによっては数千円で開催されています。

高いか安いかというのは消費者の主観ですから、ここでは言及しませんが、アメリカ心臓協会が儲けているわけではないという事実は、AHA公認インストラクターとして声高に主張させていただきたいと思います。

受講料は、その一部たりともアメリカ心臓協会に上納されることはありません。

この事実を知らないインストラクターも多いらしいことは嘆かわしいことです。

誰かが受講することでAHAの収益になる部分があるとすれば、それは受講者が書店で購入する公式テキストの印税分だけです。

それともうひとつは、プロバイダーカード(修了証)の台紙の値段から代理店手数料を差し引いいた微々たる額だけです。

参考まで、プロバイダーカードの台紙の金額は下記のとおりです。

・PALSプロバイダーカード 24枚 108ドル 1枚あたり4.5ドル ≒ 約540円
・ACLSプロバイダーカード 24枚 108ドル 1枚あたり4.5ドル ≒ 約540円
・ヘルスケアプロバイダーカード 24枚 48ドル 1枚あたり2ドル ≒ 約240円

これはあくまでも販売代理店での定価ですから、ここからアメリカ心臓協会に入る収益はホントに微々たるものです。

なんどもいいますが、AHA講習が高いと言われる現状を作ったのは、日本の提携団体であって、AHA自体はパテント料などを取るわけでもなく、事実上無料で日本での講習開催を認めているという事実を知っておいてください。



プール監視員に求められるコンピテンシーとは?

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昨日、プールでの子どもの死亡事故が報じられました。

小1男児、プールで溺れ死亡 身長より深い所、監視員は1人 奈良・橿原
「小1男児、プールで溺れ死亡 身長より深い所、監視員は1人 奈良・橿原」
産経ニュース


まず言えることは、プール事故をゼロにすることはできません。交通事故がゼロには絶対にならないと同じです。しかし、イデアとしてゼロを目指して減らす努力を続けていかなくてはいけません。

足がつかないプールに一人で入っていたということで保護者の監督責任とか、施設としての監視体勢や、監視員の教育や能力など、いろいろと言われていますが、この事件をきっかけにプール監視員に必要なコンピテンシー(能力)とシステムについて、最後は病院内の安全システムと対比させながら考えてみたいと思います。


夏場になると、プールの監視員のバイトの募集が多くなります。
大学生(高校生も?)のアルバイトとして珍しくないものと思います。

だいたいCPRの訓練は受けているようで、素人考え的には心肺蘇生法を心得てくれれば安心とも思いがちです。

今回の事故も別の報道によれば監視員による心肺蘇生が行われたことが書かれており、その責任は果たしたといえるかもしれません。

でも、それだけでよかったのか?

監視員の仕事は、いうまでもなく監視です。救命が本義ではありません。

監視の延長として救命処置があるだけ。

救命処置は最後の手段で、それを使うような事態にならないように、予防という意味で監視しているわけです。

であれば、プール監視員が研修等で身に付けるべき最大のスキルは、「危険を察知する視点と気づく能力」を鍛えることです。

このあたりを、バイトの監視員にどのように教育しているのかは私は知りません。



おそらくプール監視員の安全管理業務の中で、技術的に単純で訓練・習得が容易なのが、心肺蘇生法です。

それよりはむしろ、異変に気づいて介入する判断をするノンテクニカルスキルや、他の監視員やプール管理者、119番通報をするといった、連絡・報告の判断とスキル、溺れた人を引き上げる方法といった方がよっぽど難しく、訓練の仕方も難易度が高く、習得に時間を要するはずです。

こういったプール監視員の職業訓練がどのように行われているのか、非常に気になるところです。


(不可抗力である場合があったとしても)目の前で人が命を落とし、そこに自分が少なからず関与するという重大な責任を伴う仕事を、時給数百円の学生短期アルバイトでまかなう現状。

消費者としては、コワイなと思うのが庶民感覚だと思います。

平成24年6月、警察庁から、「プール監視業務については、プールの所有者から有償で委託を受けて行われている場合は、警備業務に該当する」という通達があり、有料プール監視にあたっては「警備業の認定が必要」ということになりました。

これがまた中途半端で、プール監視業の責任と安全性に寄与するものとなるかと思いきや、無償ボランティアであればいいとか、施設職員が監視を行うには該当しないとか、一貫した安全向上には必ずしも繋がっていないような感じです。


いまでも、学校の夏季プール開放に監視員として父兄が駆りだされているという現状を見聞きします。

命に関する業務を素人に丸投げという管理体制が問題と思いますが、じゃ、プロの警備員を雇う費用をどうするのか、というのが現実問題なのでしょう。

リスクを自分たちで負って、子どもたちにプールを楽しませるというのが基本的な考え方だと思いますが、これがすべての親御さんの総意となっているのかは、また問題かなと思います。



さて、とりとめもなくあれこれと書いてきましたが、まとめるとこんな感じです。

 ・プールの監視員は事故を防ぐのが仕事
 ・危険事象を見逃さない「気づく」力を鍛える必要がある
 ・事故を100%防ぐことはできない。防げなかった事故には報告連絡とCPRで対応を


これって、病院での急変対応と同じだと思いませんか?

院内心停止の7割程度は突発的なものではなく、防ぎ得るものと言われています。

ですから、BLSやACLSは必要なものであっても、それは奥の手であり、訓練として最大限に力を注ぐべきものではない。

BLS訓練をしているから大丈夫、というのでは、今回のプール事故と同じかもしれません。防げるものを防ぐという訓練をしてますか? という話です。


つまりどんな業界であっても、安全管理体制というのは、事故が起きてからの対応だけではなく、それ以前の予防部分をどれだけ本気で考えていたか、ということなのです。



小1男児、プールで溺れ死亡 身長より深い所、監視員は1人 奈良・橿原

 1日午前11時55分ごろ、奈良県橿原市雲梯町の橿原市総合プールで、大阪府東大阪市池之端町の小学1年の男児(6)が溺れ、同市内の病院に搬送されたが、死亡した。

 奈良県警橿原署によると、男児は午前9時ごろ、母親やいとこら7人でプールを訪れた。子供らだけで深さ約1・3㍍の地点で遊んでいたところ、姿が見えなくなり、近くにいた女性(41)がプールの底に沈んでいるのを発見。監視員らの蘇生措置を受け、病院に運ばれた。男児は身長約120㌢。

 プールを運営する橿原市スポーツ協会によると、プールの深さは1・1~1・3㍍。流水プールとつながっており、事故が起きた地点も緩やかな流れがあるという。年齢や身長制限はなく、当時、このプールには監視員が1人だった。ところです。

(産経ニュース 2015.8.1 22:56)




独立インストラクターになる! 機材購入のヒント

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AHAインストラクターとして独立を考えている方から、マネキンなどの機材の購入について相談を受けました。せっかくなので、皆さんにも情報のおすそ分け。


まずはHCPコースを軌道に乗せることを考える


将来的にやりたいことはいろいろあるかもしれませんが、まずはどのコースをどれくらいの規模で開催することを軌道に乗せるか、という視点で考えるべきです。

会社を起こすのであれば数百万円の資本金を、という話かもしれませんが、個人としてやっていくのであれば、まずは稼働させて、そこで資金を作りつつ拡充していくという路線が妥当です。

そういった意味でコンスタントに受講者が集まって、比較的収益率を乗せやすいのがBLSヘルスケアプロバイダーコースです。

まずは、BLS-HCPコースを軌道に乗せることを考えるといいと思います。

インストラクターひとりで、マネキンが1体なら最大3人の受講生を取れます。2体あれば6人ですが、この1:3という比率、非常にやりにくいです。練習や試験は二人一組で行いますので、ひとり浮いてしまい、順番待ちが発生します。

これが私は嫌いなので、1:2までに留めています。

ひとりで教えるなら、2体のマネキンで受講者4名というのがおすすめ。

現実的には私はひとりに1体のマネキンで4名まで、というのがデフォルトですが、あまり小規模だと会場費や諸経費の捻出が厳しく、機材を買い足していく原資も作れませんので、初期としてはマネキン2体で受講者4人というラインがお勧めです。


初期に購入すべきマネキンの種類と数


さて、BLSマネキンもいろんなメーカーのがありますが、私はレールダルのリトルアンとベビーアンを使っています。

AHAインストラクターとしては特定メーカーのものを推奨することはしない、ということになっていますので、この先はオススメというよりは、私の経験をお伝えするというスタンスですので、その点ご理解ください。


レールダルのBLSマネキンは、成人・小児・乳児マネキンが1体ずつセットになったリトルファミリーパッケージというのがあり、これが手っ取り早い感じがしますが、すこし考えたほうがいいです。

というのは、BLS-HCPコースでは小児マネキンは必須ではないからです。(インストラクターマニュアルをご覧ください。チョーキングチャーリーも必須ではありません)

ですから、BLS-HCPを最低限開催するために経費を切り詰めるなら、単体の成人マネキン2体と乳児マネキン2体を買うという選択肢もあります。

また購入の上で、後々問題になるのが購入時におまけ(?)でついてくるキャリーバックについて。

ファミリーパッケージのキャリーバックは大きいので、取り回しがなにかと不便。

またリトルアン4体入りのキャリーバッグも、ふつうの宅配便では受け付けてもらえないサイズなので、配送の時に不便を感じることもあります。

なので、リトルアンに関しては、私は1体ごとのキャリーバックが一番使い勝手がいいかなと思っています。配送するときには2つのキャリーバックをヒモでくくったり、大きなビニール袋で包めば、160サイズひとつとして宅配便で送れます。

反対にキャリーバッグとして使い勝手がいいのは乳児の4体入りのバック。

最初から機材拡充の方向性があるなら、少々アンバランスですが、乳児に関しては4体入りを買ってしまってもいいかもしれません。

ちなみに私が初期投資として買った機材は、

・リトルアン 2体
・ベビーアン 4体
・AEDトレーナー1台
・BVM成人 2
・BVM乳児 2
・ポケットマスク 2

でした。

受講者対マネキン比1:1でHCPコースが開催できる機材ということでしたが、乳児はおまけのキャリーバックが欲しかったから、というのがこの理由です。

今は、少しずつ買い足していって、

・リトルアン 5体
・ベビーアン 5体
・リトルジュニア 5体
・AEDトレーナー5台
・BVM成人 8
・BVM乳児 8
・ポケットマスク 8

という機材を個人所有しています。


AEDトレーナーの選び方


さて、次にAEDトレーナー(練習機)についてですが、これが意外と高い!

各メーカー、練習機なのに8万円~10万円くらいします。

しかし、今では安い練習専用機が2万円くらいで出ていますので、それで十分です。

実機として存在しないからダメという意見を聞くこともありますが、そもそも公募で不特定多数に開催するような講習であれば、実機の存在しない仮想機の方がむしろいいんじゃないかと思います。

例えば、どこかの施設に出向いて職員研修を行うなら、その施設で実際に導入している機種で練習するのがいちばん現実的ですが、不特定多数の講習であれば、どんなAEDに遭遇するかわからないわけですから、実機の有る無しは関係ないですし、むしろ汎用性を重視した癖のない機種がいいだろうということです。

また、実機に合わせようとすると、例えばパッドを貼った後にリモコン操作が必要な機種があったり、パッド間を実際に電気的に通電させるためにマネキンのボディにアルミ箔のテープを貼らなくてはいけない機種があったり、なにかと癖があるのも要チェックポイント。

現実の機種としては少なくなってきましたが、パッドを貼った後にコネクタを刺すタイプの練習機の方が指導する側としては使いやすいです。



バッグマスクの買い方


最後にバッグマスクについて。

昔は医療機器ということで、入手が困難だったのですが、いまではAmazon.co.jpでも気軽に買えるようになっています。

先ほど、Amazonを見てみましたが、成人用も乳児用も8千円くらいでありました。

私は、16ドルと割安なので米国から直輸入で買ってますが、医療器具なので通関で引っかかって届かないこともあるので、やるならリスクを承知のうえで。送料を含めると倍くらいにはなりますが、それでも無事に届けば日本で買うよりは安いです。

バッグマスクには、一般的に成人用、小児用、乳児用がありますが、実際のHCP講習を開催している様子をみていると、赤ちゃんマネキンに対して乳児用のBVMを使っているケースはあまり見ないような気がします。

一回り大きな小児用を使っているケースが多いかなという印象。

買うときにはフェイスマスクの大きさが乳児にマッチしているか確認することをお勧めします。

もっともマスク部分だけは乳児用ポケットマスクに交換するという手もありますし、マスク部分だけの単体販売もあります。

あと、バッグマスクはリユース(滅菌)できるタイプのものと、ディスポーザブル(単回使用)のものがありますが、全国のAHA講習で使われているのは総じてディスポ品です。高い分解洗浄できるタイプ(3-4万円?)をわざわざ買う必要はありません。


その他


その他、おまけの情報として、マネキンを買うなら、メーカーのホームページから買うよりは、病院に出入りの医療機器のディーラーさんにお願いしたほうがお得です。たぶん1割から2割引きくらいにはなるはず。

あと、リトルアンの交換肺は日本で買うとバカ高いので、米国のWordPointなどで扱っているサードパーティー品(別メーカーの互換品)がオススメ。正規版とまったく遜色なく使えます。

レールダル正規品の交換肺でも、日本に比べると安く買えますが、ここ数年、日本への輸出が禁止されてしまったようです。でも、先ほどのサードパーティー品なら問題なく日本に発送してくれます。



以上、独立インストラクターとしての初期投資に関して、気づいた点を書き留めてみました。

参考になりましたら幸いです。





日本に新しいAHAトレーニングセンターが設立された模様

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AHA Instructor Network周辺を徘徊していて見つけてしまいました。

いつのまにか日本に新しいAHAトレーニングセンターが認可されていた模様。

日本に新しく設立されたAHAトレーニングセンター


ただ、よくよく見てみると、トレーニングセンターのIDがMTN0700。

そしてトレーニングセンターコーディネーター名は外国人名で、メールアドレスも末尾が@us.af.mil。

住所は嘉手納。

そう、米軍のAHA Military Training Networkのトレーニングセンターでした。

MTNの登録も日本という枠内に表示されるんですね。知りませんでした。

それでも少なくとも以前はありませんでしたから、日本国内の米軍基地内に新しくトレーニングセンターができたってことなんでしょうね。

私の知る限り、海軍MTNも空軍MTNもトレーニングセンター自体は本国にあって、日本で展開しているのはあくまでもサイトだと関係者から聞いていました。

詳しい事情はよくわかりませんが、ITCの私たちにはあまり関係ない話だったようです。





プール監視員に求められるコンピテンシーとは?

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昨日、プールでの子どもの死亡事故が報じられました。

小1男児、プールで溺れ死亡 身長より深い所、監視員は1人 奈良・橿原
「小1男児、プールで溺れ死亡 身長より深い所、監視員は1人 奈良・橿原」
産経ニュース


まず言えることは、プール事故をゼロにすることはできません。交通事故がゼロには絶対にならないと同じです。しかし、イデアとしてゼロを目指して減らす努力を続けていかなくてはいけません。

足がつかないプールに一人で入っていたということで保護者の監督責任とか、施設としての監視体勢や、監視員の教育や能力など、いろいろと言われていますが、この事件をきっかけにプール監視員に必要なコンピテンシー(能力)とシステムについて、最後は病院内の安全システムと対比させながら考えてみたいと思います。


夏場になると、プールの監視員のバイトの募集が多くなります。
大学生(高校生も?)のアルバイトとして珍しくないものと思います。

だいたいCPRの訓練は受けているようで、素人考え的には心肺蘇生法を心得てくれれば安心とも思いがちです。

今回の事故も別の報道によれば監視員による心肺蘇生が行われたことが書かれており、その責任は果たしたといえるかもしれません。

でも、それだけでよかったのか?

監視員の仕事は、いうまでもなく監視です。救命が本義ではありません。

監視の延長として救命処置があるだけ。

救命処置は最後の手段で、それを使うような事態にならないように、予防という意味で監視しているわけです。

であれば、プール監視員が研修等で身に付けるべき最大のスキルは、「危険を察知する視点と気づく能力」を鍛えることです。

このあたりを、バイトの監視員にどのように教育しているのかは私は知りません。



おそらくプール監視員の安全管理業務の中で、技術的に単純で訓練・習得が容易なのが、心肺蘇生法です。

それよりはむしろ、異変に気づいて介入する判断をするノンテクニカルスキルや、他の監視員やプール管理者、119番通報をするといった、連絡・報告の判断とスキル、溺れた人を引き上げる方法といった方がよっぽど難しく、訓練の仕方も難易度が高く、習得に時間を要するはずです。

こういったプール監視員の職業訓練がどのように行われているのか、非常に気になるところです。


(不可抗力である場合があったとしても)目の前で人が命を落とし、そこに自分が少なからず関与するという重大な責任を伴う仕事を、時給数百円の学生短期アルバイトでまかなう現状。

消費者としては、コワイなと思うのが庶民感覚だと思います。

平成24年6月、警察庁から、「プール監視業務については、プールの所有者から有償で委託を受けて行われている場合は、警備業務に該当する」という通達があり、有料プール監視にあたっては「警備業の認定が必要」ということになりました。

これがまた中途半端で、プール監視業の責任と安全性に寄与するものとなるかと思いきや、無償ボランティアであればいいとか、施設職員が監視を行うには該当しないとか、一貫した安全向上には必ずしも繋がっていないような感じです。


いまでも、学校の夏季プール開放に監視員として父兄が駆りだされているという現状を見聞きします。

命に関する業務を素人に丸投げという管理体制が問題と思いますが、じゃ、プロの警備員を雇う費用をどうするのか、というのが現実問題なのでしょう。

リスクを自分たちで負って、子どもたちにプールを楽しませるというのが基本的な考え方だと思いますが、これがすべての親御さんの総意となっているのかは、また問題かなと思います。



さて、とりとめもなくあれこれと書いてきましたが、まとめるとこんな感じです。

 ・プールの監視員は事故を防ぐのが仕事
 ・危険事象を見逃さない「気づく」力を鍛える必要がある
 ・事故を100%防ぐことはできない。防げなかった事故には報告連絡とCPRで対応を


これって、病院での急変対応と同じだと思いませんか?

院内心停止の7割程度は突発的なものではなく、防ぎ得るものと言われています。

ですから、BLSやACLSは必要なものであっても、それは奥の手であり、訓練として最大限に力を注ぐべきものではない。

BLS訓練をしているから大丈夫、というのでは、今回のプール事故と同じかもしれません。防げるものを防ぐという訓練をしてますか? という話です。


つまりどんな業界であっても、安全管理体制というのは、事故が起きてからの対応だけではなく、それ以前の予防部分をどれだけ本気で考えていたか、ということなのです。



小1男児、プールで溺れ死亡 身長より深い所、監視員は1人 奈良・橿原

 1日午前11時55分ごろ、奈良県橿原市雲梯町の橿原市総合プールで、大阪府東大阪市池之端町の小学1年の男児(6)が溺れ、同市内の病院に搬送されたが、死亡した。

 奈良県警橿原署によると、男児は午前9時ごろ、母親やいとこら7人でプールを訪れた。子供らだけで深さ約1・3㍍の地点で遊んでいたところ、姿が見えなくなり、近くにいた女性(41)がプールの底に沈んでいるのを発見。監視員らの蘇生措置を受け、病院に運ばれた。男児は身長約120㌢。

 プールを運営する橿原市スポーツ協会によると、プールの深さは1・1~1・3メートル。流水プールとつながっており、事故が起きた地点も緩やかな流れがあるという。年齢や身長制限はなく、当時、このプールには監視員が1人だった。ところです。

(産経ニュース 2015.8.1 22:56)





AHA-ACLSプロバイダーコース、iPadで開催できるって知ってました?

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かつては「あり得ない!」と言われていた看護師のACLSインストラクター。

ほんの数年のうちに、広がりを見せて、いまではほぼすべてのITCで認められるようになってきたようです。

ただ、看護師が主体となって開催するACLSプロバイダーコースは、まだ多くはありません。

BLSくらいなら病院での業務終了後に「放課後コース」として気軽に開催できますが、ACLSともなると時間的な面はもとより、機材の準備という点でも、ひとりで細々と開催するにはなかなかタイヘン。

また病院外で個人的にACLSを開催しようと思ったときに、ALSマネキンのレンタルはありますが、本物の除細動器を貸してくれる公式なサービスはありません。(医療機器メーカーへのコネがあれば借りる手はありますが)

そこがネックとなって、個人レベルでのACLS開催はハードルが高いのが現状。




そこで今回オススメするのが、tablet-based monitor simulator ACLSプロバイダーコースです。(なんだかテレビショッピングみたいな振りですが…)

ウン百万円するALSマネキンや除細動器を使わず、BLS機材とiPadを使ってACLSプロバイダーコースが開けるんです。

日本語化されていないためにあまり知られていませんが、iPadのアプリで、「モニター除細動器のシミュレーター」なるものがあるんですね。

モニター除細動器シミュレーター(iPad)

他にもあるのかもしれませんが、比較的よく知られたDartSimというアプリがこちら。

タッチパネル上に除細動の充電ボタンやショックボタン、経皮ペーシングや、同期ショックなども再現できるようになっています。充電中は、キュイーンという充電音がでて、きちんと充電完了が確認できます。

心電図波形のコントロールは、別のもう一台のiPadか、iPhoneからリモコンで操作することができますので、使い勝手はレールダルのSim Padみたいな感じです。

血圧や酸素飽和度、終末呼気二酸化炭素濃度なども表示できますので、ROSC後の管理や、PALS、PEARSなどの非心停止対応のシミュレーションにも使えます。



これを使えば心電図波形の再現も除細動もiPad側で完結しますので、マネキンに心電図波形を作り出すジェネレーター機能は必要ありません。

つまり、BLS用のレサシアンや、腕はありませんがリトルアンでもOKということ。

問題となるとは、心電図モニターの電極や除細動のパドルをどうするのか、という点ですが、これはAEDトレーナーのパッドや、電気パーツ店で売ってるワニ口クリップ+コードなんかで代用可能。電気的にiPadと接続する必要はないので、モニターを付けました、という動作だけをしてもらえればいいわけです。

コードの根元部分がブラブラしているのはウソっぽいので、理想的にはプラスチックケースに穴を開けてそこからコードを出しておいて、その上にiPadを乗っけるとかするとそれなりに体裁は保てます。

除細動がパドルではなくパッドだけになってしまうというデメリットもありますが、そもそもAHAではパドルよりパッドを推奨していますし、ACLSプロバイダーコースのデモ・ビデオの中でもパッドショックでやってますので、この点はなんら問題ないかと思います。



こんな方法がありなんだ、と知ると、ACLS開催もちょっとは気軽な感じになると思いませんか?

厳密には、NPAとOPAの実習を考えると、気道管理マネキンも必要ですが、レンタルで借りても8千円ほど。ハートシムがレンタル料5万円ってことを考えればだいぶ割安に開催できます。



最後に、こんなインチキみたいなやり方をAHAが許しているか? という疑問については、2012年7月にAHAから出されたTraining Memoに書かれていますので、関係者の方は確認してみてください。"Use of Tablet-Based Monitor Simulators"というタイトルの文書です。

これを機に、敷居が低く、気軽にACLSプロバイダーコースが開催されるようになるといいなと期待しています。そして熱意のある看護職ACLSインストラクターさんが各地で活躍することを願っています。




AHAガイドライン2015暫定コースの指針がでましたね

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今回の蘇生ガイドライン改訂、前回ほどの気合が感じられず、G2015正式教材が出るまではノラリクラリとG2010のままでいいのかなと思っていたらどっこい、またしても暫定コース(Interim Course)をぶち込んできたんですね。

AHA2015ガイドライン暫定スキルチェックシート


AHA Instructor Networkにログインすると、2015 Interim Toolということで、ガイドライン2015にモディファイドされたBLSのスキルチェックリストがダウンロードできます。

これでG2015コースが堂々と開催できる!

と浮足立った方、いませんか?(笑)

これが出たからといって、明日からG2015暫定コースを開催できるわけじゃありません。

詳しくはAHA Instructor Network内にアップされているコンテンツをじっくり読んでほしいのですが、公式なAHAサイエンスアップデートを受けていることが前提条件になっています。

で、そのアップデートは2月15日までにインストラクター全員が受けろって書いてあるんですよね。

でも、日本でAHA公式サイエンスアップデート・ミーティングが開かれるのは3月6日(東京)だし、、、、


たぶん、2月15日までという期限は、米国内のインストラクターだけなんでしょうね。

で、そもそも全員が全員、正式なアップデートに参加できるわけもないし、オンラインでのアップデートとかそのうち出ると思うんですが、12月頃なのかな。

いずれにしても、これらは英語の世界の話で、日本語教材が出るのもっと遅いですから、まだしばらくは純粋なG2010コースでいいんだと思います。

写真のスキルチェックシートはBLSヘルスケアプロバイダーコースとPEARSプロバイダーコースのものですが、他にもPALSとかACLSのも出てますし、レッスンマップの改変点やプロバイダーマニュアルの正誤表などもアップロードされています。(あと、TCCにしか公開されていませんが、筆記試験も変更されたようです。)


BLS-HCP 2015 Interimスキルチェックで変わったところは、

1.反応確認の後、すぐに叫んで通報+AED手配
2.呼吸と脈を同時確認(5秒以上10秒以内)
3.30回の胸骨圧迫が15秒〜18秒
4.15回の胸骨圧迫が7〜9秒

くらいです。

(成人の)胸骨圧迫の深さは、「少なくとも5センチ」のままで、6センチという上限は盛り込まれませんでした。さすがにスキルチェックするインストラクターの方で判断できないと思ったんでしょうね(笑)


さて、今回のガイドライン2015暫定コースについて、皆さん、所属のITCからはどんな通達が来ていますか?

はっきりとした日本向け情報はないもんだから、どこも判断しかねて静観してるところなんでしょうかね?

なにか有力な情報があったら、ひっそりと教えてほしいです。




PEARSの概念をAHA以上によく表現しているERCガイドラインの院内救命アルゴリズム

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病院内心停止と、病院外心停止を概念的に切り分けたのが蘇生ガイドライン2015の最大のポイントかなと思うのですが、AHAガイドラインのアルゴリズムとしては、いまいちその違いが感じられないのが残念。

その点、ヨーロッパ版のERC蘇生ガイドライン2015の病院内心停止アルゴリズムはより具体的です。

ヨーロッパ蘇生協議会ERCガイドライン2015の院内心停止アルゴリズム


入り口が心停止を匂わす卒倒に限らず、Sick Patient、つまり具合の悪そうな患者を見たというところからスタートしています。

生命徴候がなければ30:2のCPRですが、生命徴候がある場合は、ABCDEアプローチで体系的なアセスメントをして、病態認識と処置をしろと。

その処置というのは酸素投与と静脈路確保のこと。

そうやって最低限の安定化で心停止を食い止めつつ、蘇生チームに引き継げという内容。

完全にPEARSですね。

心停止予防のモニタリングをBLSプロバイダー(英語版表記ではPrimary Provider)の業務範囲と具体案もなく提示しているAHAガイドラインより、よっぽど明確です。



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